新血管内治療を終えて、クリニックを後にし
タクシーで病院に向かっていた・・・車で7〜8分位で病院に
着いた・・「ここを曲がったら病院」という所で、彼は運転手さんに
「ここでいいです!」と言い、車を降りた・・・
病院の裏手の公園で、煙草を吸い始めた彼は・・・
ベンチに腰掛けると、いきなり「帰ろう・・」と言うのである・・・
???「帰ろうって・・何処へ?」「大分だよ」・・・
「病院は?行かないの?」「行かない・・」
彼が、はっきりそう言った時は、何を言っても無駄だと思ったので
「とりあえず、病院にキャンセルしてくるから待ってて!」と言い
急いで受付に行き、事情を話した。
受付の人は、予測していない事態に 戸惑っていた。
「少し お待ちください」と言って、TELをかけていた・・・
もちろん、クリニックにかけていることは一目瞭然!
入院したくないという人を、無理矢理入院させとくなんて無理だよなぁ・・
なんて思っていると、案の定受付の人は「わかりました」と言い
CT画像のフィルムを私に返却しようとしてくれたけれど、この時点で
フィルムを受け取っても荷物になるだけだし、入院しない以上・・必要
もないので 受付の方に無理を言ってクリニックに送り返してもらうよう
お願いをした・・・
急いで彼の待っている公園に戻ると、彼は無邪気に鳩と戯れていた。
私の顔を見ると「悪いな!我儘言って・・」と素直に謝った・・・
入院したくない理由・・・それはー
入院自体が嫌いであることは・・・最初の病院→抗がん剤の時から
よくよくわかっている・・・
今回の経過観察という名目の入院を、
彼は素直に受け止められなかっただけのことなのだ・・・
この入院は、新血管内治療を受けた後に 出現するであろう、
免疫応答の諸症状を想定したうえでの、フォローの為にクリニックと
病院とで提携しているという・・安心、安全のための対策なのだという
事は、治療を受ける前に、彼には十分説明していたのだけれど・・・
彼にとっては、そういうふうには受け止められなかったようだ・・・
どうしても、そこにマージンの絡みがあるんだと言い続けていた。
私は「強制入院」ではないよ!県外からの患者さんの為に、
ホテル代わりに安心して経過を観察し、対応できるように配慮して
紹介しているんだよ!と何度も説明したけど、駄目だった・・・
病院にも予定というものがあるんだから・・こういう形のドタキャンは
よくないよ!と説得したけど・・彼には「嫌なものは嫌!」なのだ・・
受け入れ予定の病院にとっては、迷惑な患者だろうなと思いつつ
クリニックサイドでも、妥協してくれた事に 私は正直ホッとした・・・
それはそれで、答えが出たとして・・・
問題は泊まるところである・・・彼は大分に帰ると言っているが
初めての治療後の 彼の体の変化が予測出来ないし・・・
治療そのもので疲れているはずである・・・
「とりあえず、どこかホテルを探すから一泊はしようよ!」と言うと
すんなり納得してくれた・・・
多分、体はきつかったんだろう・・・
この日、大分に帰るのを躊躇ったのには もうひとつ現実問題として
新幹線のチケットの関係もあった。
前回の受診から1週間後の大阪行きだったので、飛行機の予約が
無理だったため、JRのビジネスプランを利用しての旅だったため
チケットの変更が一切効かないのであった。
片道分のチケットを1人分新たに購入するだけでも、おおよそ1人分
の1泊2日分にあたるのである・・・
とりあえず、前もってインターネットで調べてメモっていた、クリニック
周辺と思われるホテルにTELをかけた・・・
2件目にかけたホテルが空きがあり、安かったので場所を聞き・・・
20分程歩いて、やっとたどり着いた・・・
着いて、手続きを済ませ・・部屋に案内されると、彼はすぐさま横に
なった。熱を測ると37,8度・・免疫応答である・・・
すぐにフロントに行き、氷をもらった・・・
持参の氷枕でクーリングを開始・・・免疫が活発に働いてくれれば、
まだ熱は上がるはずである・・・
いよいよ、癌細胞と彼自身の免疫との闘いが始まった・・・
もう今日1日の様々な出来事も、帰りのチケットの事も、どうでもよか
った・・・今は彼の免疫細胞達にエールを送り、そしてその働きの結果
として現れる発熱や痛みに対応してゆく事だけしか頭になかった・・・