ホスピスへのペインコントロール入院までの間に
私たちの記念日が、そこにはあった・・・
ホスピスを訪れ・・痛みが消えた1日は
神様からのプレゼントだったのかもしれない・・・
翌日の夜には、眠れないほどの痛みが襲ってきた
もちろん、ホスピスから貰っていたレスキューを飲んで
その場はしのげたのだけれど・・・
癌の進行による神経の圧迫や、骨への浸潤による痛みは
やはり・・モルヒネの効果は期待できなかった・・
ボルタレン鎮痛薬入りの湿布を貼ったりさすったり・・
痛いところに手を当ててあげるのが 1番落ち着くようだった
私は早くコントロール入院の日がきて、この痛みに対応できる
痛み止めを処方して欲しいと願うだけだった・・・
そんな状態のなかで・・
彼が、「出逢った海に行こうよ・・今日は記念日だよ・・」と言う
記念日であることは、勿論 私もわかっていた・・・
けれど、車で1時間以上かかる場所・・
彼の今の状態を考えると・・とても言い出せることではなかった
「往復で、3時間くらいかかるよ・・大丈夫なの?」と聞くと
「今日行かなかったら・・もう2度と行けないよ・・行きたいんだ」
彼は「最後」という言葉を選ばなかったけれど・・・
瞳は・・遠くを見つめていた・・・
「わかった!行こう!」
腰や背中の痛みに対して安楽のポジショニングができるよう
クッションやバスタオル等をいくつか持ち、夜の海へでかけた。
彼は、薬のせいもあって・・車の中では ずっと眠っていた・・・
想い出の海に着くと・・・
車が止まった事に気付いた彼が目を覚ました・・・
海を前にして・・彼の瞳が輝いた・・・
「来れたんだ・・よかったなぁ」
車から降りて、短い時間だったけれど手を繋いで砂浜を歩く・・
出逢った夜のことが 昨日のことのように甦る・・・
車に戻ると・・彼が小さな箱を渡してくれた・・・
「何?どうしたの・・これ?」
「記念日のプレゼントだよ・・昨日買ってきたんだ」
「誰が?」
「自分で買いに行ったんだよ」
私は信じられなかった・・けれど話しを聞くと本当らしい・・
彼は、あの痛みが消えた日の翌日・・
息子さんに店の前まで一緒に付き添ってもらい、そこからは
ひとりで買い物をして、ひとりで歩いて帰ったらしい・・・
彼は痛みが消えたことを、「記念日の日のために1日だけ
神様が俺に動けるように魔法をかけてくれたんだよ」
そう言って笑った・・・
「あけてごらん・・」
箱を開けると、ネックレスがきらめいていた・・・そう・・・
「現在・過去・未来」の3粒のダイヤが並んだネックレスだった
「5年前・・俺と出逢ってくれて ありがとな」
「そして今・・こんな癌になった俺と一緒に生きてくれてありがとな」
「そして・・・・・幸せにしてやれなくて ごめんな」
涙が止まらなかった・・・
彼の胸でしばらくの間うずくまって泣いた・・・
彼は、優しく髪を撫でてくれながら・・言った
「毎年、この日・・この海に・・必ず君に逢いにくるから・・」
もうすぐ・・・あの日から1年・・
約束の日は・・やってくる・・・
彼は、今でもずっと私の胸できらめいている・・・