苦しみからの解放・・・
もう、引き返せない・・
セデーションは、彼に対して最後の選択だった。
彼は・・癌であることが嘘であるかのように
穏やかに・・本当に穏やかに眠っている・・・



「痛み」も「呼吸苦」もないよ
もう自由に羽ばたいてもいいの?
心のままに・・・

みんな側にいてくれてるんだね・・・
ポンコツになった俺の体を
みんなで さすってくれてありがとな・・・

俺は 1足先に旅立つけれど
こうして、みんなが側にいてくれて幸せだ!
ありがとな・・・

たくさんの痛みも・・無くなったよ
体は・・還すけれども
心は・・解放だよ・・・
飛んでいくよ・・・
風になり・・みんなを見てるから・・・
感謝だよ!

いい人生だったよ!
癌になったからこそ、見えてきたものがあるよ
最後の最後に・・「生きること」に真剣になれたよ・・・

眠ったままの彼の手を握り続ける中で・・・
そんな彼の心の声が聞こえてきたのは
どうやら私だけではないようだった。

それでも、肉体との現実の別れは辛い・・・
みんなが、それぞれ彼のやせ細った体を慈しみ労った・・・
チアノーゼの現れ始めた足先を懸命にさする・・・
看護師の娘は脈を取り続けた・・・

それぞれの想いを込めて・・それぞれの想いで彼の体にふれている
看護師さんがサチュレーションだけ測りにくると
それでも皆食い入るように数値を見つめる・・・

痛みがない・・正確には痛みの訴えがないということは
こんなにも皆穏やかなのだ・・・
彼が・・彼の肉体が「死」に向かっているなんて信じられないだろう・・
さすりあいながら彼の話しで盛り上がっている・・・

彼の心機能は人一倍強く・・肺活動は殆ど停止しているのに
心機能だけで実に丸2日持ち堪えていた・・・

無呼吸の状態が十秒近く続くと・・・さすがにみんなの表情が慌てた・・
慌てて「しっかり息してよー」とみんなで揺すっている。
そうすると、大きく溜息をつくように息をする彼・・・

その繰り返しの中で 確実に現れてくる臨死症状・・・
頑張ってくれていた心臓も・・・・・
血圧が測れなくなった・・・
最期に彼は、体内のすべての想いを吐き出すかのように
大きな大きな呼吸をした。
言葉にならない言葉を発したのだろう・・・

「ありがとう・・そろそろ逝くよ!またな!」
「ホントに ありがとな」

そんな彼の心の声が聞こえた気がした
そして・・彼の魂が、肉体から旅立っていく感覚が
空気の中に感じられた・・・
苦しみからの解放・・そして彼は私達の心に「永遠」となった。

私は思わず「こちらこそ、ありがとう。大好きだよ」と呟いた・・・
3月5日・・・21時07分・・・
もうすぐ 彼の旅立ちの日が巡ってくる・・・