このからだを 自分の意志では
 どうにもできなくなったときも・・・

 私に奇跡が起きてほしいと願っている。

 それが叶わぬなら せめて
 悲しいけれど爽やかに見送れたという思いを

 最期まで そばにいてくれた
 家族と大切な人に 残してあげたい・・

 生きていることを実感させてくれたのは
 あなたたちなのだから・・・


 −穏やかであるようにー

 ひとりでは もう何もできなくなったとき
 患者さんの多くが、「こんな状態で 生きている意味は
 あるだろうか?」という疑問を訴えます。

 人は 自分が生きてきた意味と、今 生きている意味に
 納得でき、しかも来世に何らかの希望を見いだせた時

 やっと穏やかな心持ちで
 死を受け入れる準備ができるのかもしれません。

 その乗り越えかたは 人によってさまざまです・・・
 しかも その境地は
 自力でしか 切り開くことができません・・・

 なぜなら、それは誰もみたことのない世界なのですから・・

 それでも、私たちはその時まで 
 
 あなたに寄り添い・・・
 あなたの言葉に耳を傾け
 あなたと共に歩いていきます・・・


彼は、この日・・半年ぶりに自分を取り戻した・・・
翌週からの ペインコントロール入院の予約を入れた後
病院の玄関を出た途端・・・
秋を満喫したいのか・・紅葉の葉やドングリを拾ったり・・
高台から見える山々を見つめながら
久々に深く深呼吸をした・・・

「このまま久しぶりに温泉に行こうよ」と言いだした。
準備も何もしていなかったけれど・・「何とかなるさ」と思い
案内板を頼りに山の方へと 車を走らせた・・・

10分程 車を走らせたところに 彼のお目当ての温泉・・
「おさるの湯」は在った・・・

高崎山に通じていると言われる この温泉は 
今まで色んな温泉に行ったが すごく自然体で・・・
犬や猫や鳥も あちこちに放し飼いにされていて・・・
彼は とても大喜び・・・

こじんまりとした売店には 野菜や米なども置かれていて
ここで飲み物や鶏飯・・アイス等を買い家族湯へ・・・
本当に 彼が癌であることを忘れてしまうかのような
のびのびと、ゆったり過ごせたひと時だった・・・

痛みがないって・・・こんなことなんだ・・・

しばらく、忘れていた感覚を取り戻すことができた・・・・
大切な価値ある時間を過ごさせてもらえたことが
何よりも嬉しかった・・・

意識はしていなかったのだけれども・・・
痛みに心を捉われていた時間が
思っていた以上に 降り積もっていた・・・

そして、彼が以前の彼を取り戻せた時間も・・・
この日が 最初で最後だった・・・

次回お話ししようと思っていますが・・・
私は・・このわずかな・・彼が痛みを忘れる事ができた
この1日に 今でも心から感謝しています・・・