熊本から戻って、しばらく経った頃・・
彼が・・「 もう1度だけ新血管内治療を受けてみるよ・・
体力的にも、経済的にも これが最後だよ」
穏やかながらも、強い眼差しで そう言った・・
複雑な想いが・・その瞳の奥に秘められているのだろう

私から見ても、今の体力で治療に耐えられるのかどうか・・
不安はあった・・・
「最後の治療」 私もそう思った・・・

前回の新血管内治療から、約3ケ月ぶりだった・・
さっそく、師長に連絡をして 予約調整してもらった。
10月・・秋深まった頃、大阪へと向かった。

この頃、彼にはもう車の運転は厳しい状態で・・
「悪いな・・運転してくれるか?」と申し訳なさそうに言う。
車の運転が出来なくなるということを、彼なりに ひとつの
バロメーターにしていたところがあって・・・それまでは
体力と気力のバランスを見ながら、私は運転の交替を
申し出ていたのだけど・・熊本に行く時に運転したのを最後に
彼はキーを私に渡すようになっていた。

「右手が利かないんだ」と漏らしていた・・・
骨転移の影響だろうと思った・・

クリニックに着くと、何となく心にエネルギーが充電されるのが
自分で感じられた・・
「何も(治療を)しないこと」への不安が・・・
「まだ何とかなるかもしれない」という期待に変わったのかも
しれない・・一喜一憂である・・・

ただ、この時の新血管内治療は・・予想していたよりも遥かに
彼にとって辛いものだということが、モニターの表情を通じても
すごく伝わってきた・・・
途中で「もういいよ・・やめようよ」と言いたくなるほど
彼の表情は、辛さを物語っていた・・・
ハートレート・・バイタル的にも辛さは語られていた・・・
けれど、彼がその辛さに耐えて 生への希望を繋げようと
頑張っている以上、私はじっと見守るしかなかった・・・
ただ、祈るしかなかった・・・

早く、彼の手を握りたい・・・それだけだった・・・